まず言及しておきたいこととして、体重を増やしたいのに増やせないというケースは、しばしばそれは単純に自分や周りが思っているほど食べていないから、というのが理由だったりします。特に人から感心されるほど一度の食事量が多いのに太れない人というのは、しばしばこのケースが当てはまるのではないかと思います。
でも今回はその話ではなくって、実際にベースラインよりも多くの余剰カロリーを取っているのになかなか増量できない場合についてです。本当に過食をしているのになかなか増量できないとしたら、理由として何が考えられるのでしょうか?
リンクは、過食をした際の、体重増加に抵抗するからだの働きに関する研究です。アブストラクトがそのまま的確な要約になっているのでおおまかに訳します。
Levine JA, et.al. Role of nonexercise activity thermogenesis in resistance to fat gain in humans. Science 283: 212--214, 1999
http://www.sciencemag.org/content/283/5399/212.full
Humans show considerable interindividual variation in susceptibility to weight gain in response to overeating. The physiological basis of this variation was investigated by measuring changes in energy storage and expenditure in 16 nonobese volunteers who were fed 1000 kilocalories per day in excess of weight-maintenance requirements for 8 weeks. Two-thirds of the increases in total daily energy expenditure was due to increased nonexercise activity thermogenesis (NEAT), which is associated with fidgeting, maintenance of posture, and other physical activities of daily life. Changes in NEAT accounted for the 10-fold differences in fat storage that occurred and directly predicted resistance to fat gain with overfeeding (correlation coefficient = 0.77, probability < 0.001). These results suggest that as humans overeat, activation of NEAT dissipates excess energy to preserve leanness and that failure to activate NEAT may result in ready fat gain.
人は過食による体重増加のしやすさにおいて著しい個人差を示す。16人の非肥満者に体重維持所要量+1000kcal/dayの摂取を8週間させ、エネルギー貯蔵と消費を測定し、この生理的基礎の個人差について調査した。総エネルギー消費量の増加分のうち3分の2は非運動性身体活動によるエネルギー(NEAT)によるものであった。NEATの変化は、脂肪蓄積における10倍の個人差の主な原因と言え、過食による脂肪増加に対する抵抗を直接予測するものであった。この結果は、人が過食をすると、NEATの活性化が余剰エネルギーを打ち消すことで脂肪増加を抑制する役割を果たし、NEATの活性化がないと容易に脂肪増加に繋がる可能性を示唆する。
ここで出てくるNon-Exercise Activity Thermogenesis (NEAT)というのは、体を落ち着かなく動かすような些細な動作、姿勢の維持、および、他の意図的なエクササイズではない日常生活の活動で発生するエネルギーのことです。日本語では非運動性身体活動によるエネルギーと訳されるようです。
以下はデータです。
- コード: 全て選択
項目 (単位) 平均 範囲
Baseline weight (kg) 65.8 53.3--91.7
Overfed weight (kg) 70.5 58.8--93.1
Weight gain (kg) 4.7 1.4--7.2
Fat gain (kcal/d) 389 58--687
Fat-free mass gain (kcal/d) 43 15--78
Baseline dietary intake (kcal/d) 2824 2265--3785
Baseline REE (kcal/d) 1693 1470--1990
Overfed REE (kcal/d) 1772 1460--2040
Baseline TEF (kcal/d) 218 89--414
Overfed TEF (kcal/d) 354 133--483
Baseline total EE (kcal/d) 2807 2216--3818
Overfed total EE (kcal/d) 3361 2508--4601
REE: Resting Energy Expendiure
TEF: Thermic Effect of Food
+1000kcal/dayを8週間で平均4.7kgの増量ですが、目を引くのは個人差です。7.2kg増やした人もいれば、1000kcalオーバーの食事をしていながらたったの1.4kgしか増やせなかった人もいます。REEやTEFの変化ではこの個人差は説明できません。また、この研究では意図的にエクササイズを増やしてエネルギーの埋め合わせをすることがないよう、被験者のエクササイズレベルは低めに抑えられており、エクササイズの影響もありません。
それではこれほどの個人差が出た原因はというと、それはNEATです。
NEAT proved to be the principal mediator of resistance to fat gain with overfeeding. The average increase in NEAT (336 kcal/day) accounted for two-thirds of the increase in daily energy expenditure, and the range of change in NEAT in our volunteers was large (-98 to +692 kcal/day). However, most importantly, changes in NEAT directly predicted resistance to fat gain with overfeeding, and this predictive value was not influenced by starting weight.
NEATは過食による体重増加への抵抗における主要な調停役です。この研究では、NEATの増大の平均は336 kcal/dayでした。これは増加したエネルギー消費のうち3分の2を占めます。また、NEATの増大の個人差は非常に大きく、-98から+692 kcal/dayの幅がありました。平均としては過食をするとNEATの増大によるエネルギーの埋め合わせが起こりますが、それには大きな個人差があります。NEATが増大せず(または逆にマイナスになり)、すんなり体重増加する人がいる一方、他方ではNEATが著しく増大し、体重増加にブレーキがかかって1000kcalの過食をしてもほとんど体重が増えない人もいます。
体重を増やすのに必要なカロリーは人によって違います。摂取エネルギーの増大に伴う消費エネルギーの変動には個人差があり、それはNEATの変動の個人差が主要な要因として挙げられます。単純に何カロリー食事を増やせば何キロ体重が増える、と一般化することはできません。では、一生懸命食べてもなかなか体重を増やせない人はどうしたらいいのでしょうか?
ここからは個人的な意見と経験からですが、そういう人は一生懸命食べるのをやめる、というのを試してみてほしいです。その替わり、メンテナンスのカロリーはきっちり取るようにします。例えば1000kcal余剰に取っていたとしたら、カロリーをメンテナンスレベルまで落とすと最初は色々とガクッと体重が落ちてしまうかもしれません。でもそれは気にしないことです。少なくともメンテナンスのカロリーを取ってトレーニングもきっちりやっているのであれば、減少分は少なくとも筋肉ではありません。筋肉が落ちていないのであれは体重が落ちても気にする理由はありません。
そして、摂取カロリーを増やすなら、とりあえず数百kcal程度からで様子を見ます。取れればもっと取っても良いですが、余裕がなくなるまで過食をするのはやめるようにします。もともとトレーニングの経験をある積んで成長した人は、もう初心者の時のように大幅に筋肉を増やすことはできません。例えば増量期間で1kgでも筋肉を増やすことができたら十分凄いです。このため、正味の余剰カロリーは本当は少しで良いんです。